小さな意味のある変容

心的症状や心的問題においては、自己に自己違和感をもたらす自己と世界不一致直接体験ばかりに観察主体が固着し続けます。ホロニカル・アプローチABCモデルでいうA点固着状態です。しかも頑固で執拗な心的症状や心的問題のときほど、A点固着現象は、反復強迫的な神経・生理学的現象(層)から激しい信念対立の悪循環(次元)にまで至るまで多層多次元にわたります。A点固着状態においては、観察主体は、ある出来事を巡って、ある層ある次元のある対象のある現象ばかりに視野狭窄的になってしまっています。そのため観察主体と観察対象の関係は固定化し流動性や可塑性を失い、悪循環ループを執拗に繰り返し続けています。その結果、自己は、観察主体と観察対象(自己と世界)との新たな関係を脱統合して再構築することが不可能となり、適切な自己及び世界の自己組織化を停止させたり、退行させたり、場合によっては解体に向かっていきます。

多層多次元にわたる観察主体と観察対象の関係における悪循環パターンに対して、ホロニカル・アプローチでは、まず多層多次元にわたる悪循環する構造(フラクタル構造)の中から、もっとも変容を見込めるある観察主体とある観察対象の関係の小さな意味のある変容を促進します。そのためには、支援者は最初の手続きとして、A点に固着している被支援者自身を安全かつ安心して俯瞰できるような場作りに心がけ、被支援者がA点固着状態にある自己自身を、支援者との共同研究的協働作業によって構築された適切な観察主体から自由無礙に俯瞰できるようにします。すると被支援者は、適切な観察主体のポジション(C点)を得ることによって、はじめて自己と世界の出あいには、A点以外の出来事もあることに自ずと気づくようになります。適切な観察主体は、視野狭窄状態だったA点固着状態から抜け出し、A点以外の出来事を観察対象として視野を拡大させることができるためです。特に、自己と世界の不一致ばかりに視野狭窄的になっていた被支援者は、自ずと自己と世界の一致の体験(ホロニカル体験)もあることを実感・自覚するようになります。しかし、通常、被支援者にとって主客合一のホロニカル体験は一瞬にして消融し、再びA点に舞い戻ってしまいます。しかし、たとえ、一瞬であったとしても、直接体験には、A点以外のB点の体験もあることを実感・自覚していく被支援者は、よりA点という断片的直接体験への拘泥を緩めだし、“こころ”の可能性に目覚め、より全体な直接体験を新しい自己及び世界の自己組織化の参照枠としはじめます。特に、支援者と被支援者の共同研究的協働作業(共創)による自己と世界の不一致の直接体験(A点)と一致の直接体験(B点)の行ったり・来たりの人生の悲哀を、適切な観察主体であるC点から実感・自覚できるようになると、適切な自己と世界の自己組織化は加速化していきます。

自己は、自己と世界との出あいの不一致・一致の様々な体験を、より全体的な直接体験として新しい生き方の参照枠とすることができる限り、自己(部分)は世界(全体)を包摂し、世界(全体)もまた自己(部分)を包摂しながら、両者がもともとと縁起的包摂関係(ホロニカル関係)にあったことに覚醒していくことになります。