実感・自覚とは(1):無限の自覚

西田幾多郎は、1919年の大谷大学の開学記念日の「Coincidentia oppositorumと愛」という題で、キリスト教神秘主義者であるニコラウス・クザーヌスの「反対の一致」という意味に関する講演を行っています。この中で西田は、「我は我を知る』ことに関して、「自分自分が自分を知って居るという場合は、知る自分と知らるる自分とは一つである。即ち部分と全体とが同一でこれが真の無限であり、具体的には『自覚』がそれである。」と指摘しています。

この指摘をホロニカル心理学の用語を使って捉え直すと、「IT(それ)」が自己と世界の出あいの瞬間・瞬間の不一致・一致直接体験の出来事を知るということが実感・自覚である」となります。

西田の「知る自分」とは、通常にいう我(現実主体)ではなく、観察する我をも含めて、すべてをあるがままに直観的に知るホロニカル心理学の「IT(それ)」に相当します。

無限の部分である自己と世界の不一致・一致の直接体験が知られるものであり、「IT(それ)」が知ることが実感・自覚の深化と考えられるのです。

<参考文献>
西田幾多郎講演集,田中裕編集、2020年,岩波書店,pp9-16.