「無」の意識をめぐって:西洋(ユング)と東洋の差違

スイス生まれの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユング(1875-1961)は、西洋人の「自我中心」に対して、東洋人の「自我なき意識」の特徴について言及しました。しかし、ユングのいう「自我なき意識」と、東洋のいう「我が無」となって、自己の自己自身による直接体験実感と自覚という意味のニュアンスは異なると思われます。

前者では、自我なき意識では、自己の底は暗闇か虚無的です。しかし後者では、禅思想にみられるように、我の意識が無になって「無心」になったとしても、現前する世界をそのまま微塵の曇りも無く明晰に直覚している状態といえます。

西洋生まれの深層心理学的な無意識とは、非言語的な直接体験と自我意識の間に幻想的かつ曖昧な層構造を意味する領域といえます。しかし「自我が無」となっての自己の自己自身の直接体験の実感・自覚の時には、前者のような幻想的な無意識層はむしろ一切消失し、自己と世界の出あいの直接体験そのものとなっているといえます。

ホロニカル心理学では、西洋生まれの自我からみた深層心理学的な「無意識」と、東洋生まれの「無の意識」とは区別した方がよいと考えています。