現代版シャーマン論

AIで作成

科学技術や医学が発展する以前、世界各地にはシャーマンと呼ばれる人々が存在していました。彼らは、子ども時代から特別な素質をもつ者として見出され、厳しい修行や通過儀礼を経て、治療、予言、儀礼、共同体の危機への対応などを担う宗教的・社会的な媒介者として尊重されてきました。しかも、シャーマン的存在は特定の地域に限られたものではなく、世界各地の文化に広く見られる普遍的な現象であったと考えられます。

シャーマンの特徴は、霊的世界と現実世界を媒介する存在であったという点にあります。

もちろん、霊的世界を単純に現代心理学の言葉へ置き換えてしまうことには慎重でなければなりません。霊的世界には、それぞれの文化、宗教、共同体に固有の意味があります。その意味を失わせることなく、現代の心理社会的支援の観点から見つめ直すならば、霊的世界とは、人間の内的世界、すなわち言語化・意識化しやすい意識の層だけでなく、容易には言語化できない深層の次元とも重なり合うものとして理解することができます。

そのように考えると、シャーマンとは、単に超自然的な力をもつ存在というよりも、通常の意識では接近しにくい“こころ”の深い層へと分け入り、そこに立ち顕れるイメージ、感情、身体感覚、象徴的意味を受け取り、それを共同体の現実世界へと媒介する役割を担っていた存在であったと考えられます。

深層世界とは、夢やイメージに満ちた象徴的世界です。それは、日常生活を支えている通常の意識によって理解される世界とは異なり、幻想的で、複雑で、過去の記憶や未来への予感をも包摂する、非合理的で感情豊かな感性世界を含んでいます。シャーマンが捉えた「霊」とは、こうした非日常的な内的世界、身体的感受性、共同体の集合的な不安や願いとの深い共振現象であったと考えることもできます。

しかし、ホロニカル心理学の立場からより大切にしたいのは、シャーマンが媒介していた霊的世界と現実世界との関係を、現代の心理社会的支援における内的世界と外的世界の媒介の問題として捉え直すことです。人間の苦悩は、単に個人の内面だけに生じるものではありません。また、外的環境だけによって説明し尽くせるものでもありません。苦悩は、内的世界と外的世界のあいだに生じる不一致、断絶、葛藤、あるいは媒介不全として現れることがあります。

ホロニカル心理学では、自己と世界の生成は同時的な現象であり、実存する自己を世界から切り離して理解することはできないと考えます。自己は、つねに「場所的存在」として生きています。場所的自己とは、自己にとって内的世界と外的世界が切り離しがたく結びついているということです。多次元にわたる外的世界の出来事は、多層にわたる内的世界の形成に影響し、また内的世界のテーマは、外的世界の受け取り方や関わり方に時々刻々と影響を与えています。

その意味で、かつてのシャーマンは、その時代と地域を生きる場所的自己として、その文化における世界理解の枠組みに従いながら、霊的世界と外的世界を媒介していたと考えることができます。そこでは、個人の苦悩は個人だけのものではなく、家族、共同体、自然、死者、祖先、神話的世界との関係の中で理解されていました。現代の視点から見れば非合理的に見えることも、その時代と地域においては、内的世界と外的世界を結び直すための重要な方法であったと考えられます。

この観点から現代社会を見直すとき、自己と世界、内的世界と外的世界、意識と無意識、自己と他者との関係は、かつての時代以上に分断されているように思われます。ホロニカル心理学的に言えば、現代社会は、内我よりも外我が過度に優位となった時代であると考えられます。

現代社会は、主観をできる限り排除した観察主体が、観察対象を分析し、統合し、管理する客観主義的な立場によって大きく発展してきました。科学技術や医学、情報技術、データ管理は、私たちの生活に計り知れない恩恵をもたらしています。この光の面を否定することはできません。

しかし同時に、その反動として、主観、無意識を含む意識、身体感覚、日々生きて触れている場所としての世界、そして人間がそこに根ざして生きているという実感が見失われつつあるようにも思われます。客観的に測定できるものだけが重視され、測定しにくい苦悩、違和感、沈黙、喪失感、霊性、身体感覚、関係の質といったものが、しばしば周辺化されてしまうのです。

こうした傾向は、多様性との共存、相互尊重、自然との調和、個性化の尊重と相いれにくい側面をもっています。さらに、ノイズ的現象の排除、エビデンス議論の誤用、データ管理の一元化と権力構造化、自然破壊、地域紛争や民族紛争の火種として現れることすらあります。外的世界を合理的に管理しようとする力が強くなればなるほど、内的世界の声、地域固有の文脈、身体の訴え、自然との関係が聞き取られにくくなる危険があるのです。

だからこそ私たちは、現代社会の光の面だけでなく、その影の面をも直視する必要があります。そして、現代社会にふさわしい形で、内的世界と外的世界を媒介する働きに目覚めることが求められています。

それは、古代のシャーマンをそのまま復活させることではありません。また、非合理な神秘主義へと回帰することでもありません。むしろ、現代における心理社会的支援、教育、医療、福祉、地域実践、対話の場において、分断された内的世界と外的世界を再び結び直す「現代版のシャーマン的働き」を見出していくことです。

現代版のシャーマン的働きとは、特定の人物が特権的に担う役割というよりも、支援者、教育者、医療者、福祉職、地域の実践者、さらには一人ひとりの生活者が、自らの内的世界と外的世界のあいだに生じる不一致を丁寧に見つめ、それを関係の中で言語化し、象徴化し、現実の行為へとつなげていく働きです。

ホロニカル心理学は、この媒介の働きを、霊的・神秘的なものとしてのみ扱うのではなく、自己と世界、内我と外我、意識と無意識、個人と社会が相互に生成し合う“こころ”の場の働きとして捉え直そうとします。そこでは、支援とは、単に症状を除去することでも、外的適応を高めることだけでもありません。被支援者が、自らの内的世界に生じている声やイメージや感情を、外的世界との関係の中で受け取り直し、苦悩の意味を再構成していく過程を支えることです。

この意味で、現代に求められているのは、科学技術や医学の成果を否定することではなく、それらを尊重しながらも、そこからこぼれ落ちる主観、身体、無意識、場所、関係性、霊性の次元を再び包摂することです。内的世界と外的世界を切り離さず、両者のあいだに生じる響き合いを丁寧に聴き取ること。そこに、ホロニカル心理学が現代社会に提起しうる重要な意義があります。

私たちは今、科学技術に支えられた時代を生きながらも、同時に、深層の“こころ”と現実世界を媒介する新たな知を必要としています。その知は、古代のシャーマン的働きを現代的に継承しつつ、心理社会的支援の実践として、内的世界と外的世界を結び直す知です。

「現代版のシャーマン的働き」とは、まさにそのような、分断された自己と世界を再び媒介し、苦悩を変容へと開いていく実践的知のことと考えます。

<参考文献>
ホロニカルな“こころ“:場としての“こころ”と心理社会的統合アプローチ,相談室こころ発行,2026年.