自己意識の発達(7):移行を促進する働き(ノンフィクションフィクション)

上(フクロウ)が下「オカリナ)に言い返す場面

自己意識の発達において、多様性を促進しようとする「エス」の働きと、それらを統合しようとする「IT(イット)」の働きが重要な役割を果たします。​

以下に、第4段階から第5段階への移行プロセスを示すノンフィクションフィクション(実際の類似事例をもとに創作された事例)を紹介します。​

40代のI子さんは、他責的な言動を繰り返す母親に長年振り回されてきました。その影響で、I子さんは過剰な自己犠牲的態度や強い自責傾向を持つようになりました。彼女の自己意識の発達段階は第4段階と見立てられます。彼女の外我(他律的外的現実主体)は、自己犠牲的献身を道徳観とするホロニカル主体(理)を常識として内在化しています。​一方、内我(内的現実主体)の欲求は、外我によって監視・検閲され、時に批判に晒されていました。​

ある時、I子さんは母親の一方的な怒りに耐えかね、内我が反抗的態度を示しました。その怒りは、第3段階の誇大的万能的内的現実主体の傷つきからくる憤怒のようでした。​彼女は“こころ”のどこかで理想的な母親像を期待していましたが、反抗後の母親の反応はさらに激しい怒りでした。その結果、I子さんは自身の怒りと母親の激昂に動揺し、強い罪悪感を抱きました。​

この出来事に対し、ホロニカル・アプローチを用いるカウンセラーは以下の支援を行いました。​

自己犠牲的献身をホロニカル主体(理)として内在化したI子さんの外我をフクロウで外在化します。次に、母親に対して憤怒する内我を小物のオカリナで外在化します。その上で、外在化された外我と内我の間で対話法を実施しました。​

対話の結果は、内我の憤怒による自己主張を外我が認めつつも、その表現方法の未熟さを反省し、母親に謝罪することを決意しました。その後、I子さんは素直に母親に対して謝罪しましたが、母親はさらに激昂しました。しかし、この一連の体験を通じて、I子さんは「私って、ずっと誰にも優しくしてもらえなかったのかなあ。優しくされた記憶が思い出せないなあ」「でも、雨上がりの朝、窓から差し込む朝陽がとても暖かく優しく感じました」と穏やかな表情でつぶやきました。​カウンセラーは、窓から差し込む朝陽によって、「今・ここ」に「IT(それ)」の働きが布置されたことを実感・自覚しながら大きく頷きました。​

自己意識の第4段階から第5段階への移行を促進する背景には、一瞬の出来事ですが、「IT(それ)」の働きの布置があります。移行は、ホロニカル主体(理)の持つ論理的な弁証法的統合だけでは達成できません。「IT」のような理性的だけではなく感性的なものを含んだ統合への働きが布置されることが必要と考えます。