現代物理学からみた「物」について

AIで作成

現代物理学、とりわけ量子場理論は、物質を古典的な意味での「小さな硬い粒子」の集合として理解する見方を大きく更新しました。そこでは、電子や光子といった粒子は、あらかじめ独立した実体として存在するものというよりも、それぞれの量子場に生じる励起として記述されます。この意味で、現代物理学は、「物」を固定的実体として捉える見方から、とその相互作用の過程において立ち顕れてくる現象として捉える見方へと、パラダイム・シフトしてきたといえます。

さらに近年では、物質のみならず、時空そのものについても、絶対的なものとみなすのではなく、より基底的な構造からの創発として理解しようとする研究が展開されています。もっとも、こうした議論はなお研究途上にあり、現時点で確立した統一的結論が得られているわけではありません。

私たちにとって、このような現代物理学のパラダイム・シフトが大切になってくるのは、硬い粒子や、その粒子が集まってできていると考えられてきた個物が独立に存在し、その後に個物と個物との関係が付随するという古典的な世界観を、そのまま維持することが難しくなってきているという点です。むしろ、私たちが「物」と呼んできたもののあり方そのものが、場・相互作用・関係・情報といった動的な構造のなかで、そのつど記述されるものとして理解されるようになってきています。つまり「物」とは、不変の本質を備えた閉じた存在ではなく、一定の関係配置のもとで立ち顕れてくる生成的現象として捉えなおす可能性が開かれてきているということです。

この新しい潮流は、独立自存的に捉えられてきた私たちという個人の捉え方にも、大きな変容を迫るものとなるでしょう。

また、このような新しい「物」の捉え方は、ホロニカル心理学が提起する「“こころ”を場として捉える」という仮説と、理論構造のうえで深い相似性をもっています。ホロニカル心理学において、“こころ”は個体内部に固定的に実在する実体としてではなく、自己と世界との関係、相互作用の布置、経験の流れ、さらには意味生成の動態のなかで生起する現象として理解されます。すなわち、“こころ”とは、あらかじめ完結した内的対象ではなく、関係の場においてそのつど生成し、変容し、消滅していく出来事的な働きとして捉えられるのです。

もちろん、ここで注意しなければならないのは、量子物理学の理論をそのまま心理学へ移植することはできないという点です。物理学における場と、ホロニカル心理学における“こころ”の場とは、対象領域も方法論も異なります。したがって、両者を同一視することは適切ではありません。しかしながら、固定的実体を第一義とする見方を退け、生成・関係・相互作用を基底に据えるという方向性において、両者が構造的に響き合っていると考えることは十分に可能です。

この意味において、現代物理学が物質世界において切り開いてきた「実体から生成へ」という視座の転換は、ホロニカル心理学が“こころ”の領域において探求してきた「場としての“こころ”」という立場と、理論的に対話しうる地平を提供しているといえます。両者は、世界を固定されたものとしてではなく、関係のなかで絶えず立ち顕れてくる生成的な場として捉えようとする点で、深く通じ合っているのです。