ホロニカル・アプローチの特徴は、従前の臨床心理学において重視されてきた洞察、分析、内省及び共感のための前提となる「適切な観察主体」の強化に重点を置いている点にあります。外在化をはじめホロニカル・アプローチの数々の技法も、「適切な観察主体」を育むための手法として創発されてきたといえます。
「適切な観察主体」を育むためには、「過去」よりも「今・現在」に生きづらさをもたらしている自己と世界の出会いの不一致の出来事の変容を扱うことが重要です。また、たとえ過去の出来事を扱う場合にあっても、「今・現在」の被支援者の観察主体と観察対象の関係に過去の出来事がいかなる影響を与えているかを整理するために扱うことがポイントになります。大切なことは、生きづらさを被支援者にもたらしている多層多次元にわたる観察主体と観察対象をめぐる自己相似的な悪循環パターン(フラクタル構造)を明らかにし、そこから抜け出し、少しでも自己と世界が一致する観察主体と観察対象(自己や世界)との関係を模索することにあります。
心理社会的支援においては、過去のおぞましい出来事を扱う場合には、過去の出来事をこと細かく現場検証的に再現すること以上に、ABCモデルでいう心的距離を持ったC点から過去の出来事であるA点の記憶を適切に観察できるように支援することの方が重要となります。もし過去のおぞましい出来事の想起中、強烈な陰性の感情を付随するA点の記憶の想起が、C点の観察主体を圧倒したり、観察主体C点がA点に呑まれ近視眼的になりだした場合には、いったん支援を中断し、被支援者に深呼吸を勧奨したり、外を見て過覚醒気味の気持ちを鎮めることを求めたり、自己と世界の一致のホロニカル体験(B点)の出来事を想起したりして、「今・ここ」という支援の場が、安全かつ安心を体感できるような自己言及的な自己観察の場になるように支援者は徹底的に努めます。
適切なC点である観察主体のポジションの維持(支援者との共同研究的協働が常に必要となる被支援者もいるので留意)が可能になると、陰性感情を伴い自己違和的体験になったままの過去の出来事が、「今・現在」の観察主体と観察対象の関係に与えている思考、感情、対人関係、身体への悪影響のパターンを実感・自覚できるようになります。また、「今・現在」の支援の場における自己と世界の一致のホロニカル体験(B点)を徹底的に増幅・拡充することによって、被支援者自身が、A点とB点時の直接体験の差異を、適切なC点から一層、実感・自覚できるようになります。A点時とB点時の差異の明確化を実感・自覚出来るようになって、はじめて被支援者は、C点からの洞察・分析・内省・共感が可能になります。
C点からA点とB点の差異の実感・自覚が可能になると、被支援者は自ずとA点とB点の行ったり・来たりの対立・矛盾に翻弄されながらも、自ずとより自己と世界が一致する心地よい方向を求めるようにして、より適切な自己や世界の自己組織化に向かって生きるようになってきます。このようにホロニカル・アプローチでは、支援者は、被支援者の適切な自己の自己組織化をサポートできるような安全・安心な場作りに徹することが最も重要な役割になっているわけです。
上記のことを踏まえて、ホロニカル・アプローチの特徴をまとめると次のようになります。
・被支援者の「今・現在」の自己と世界の不一致の出来事が、より一致する方向(B点)に向かって自己及び世界を自己組織化することを可能とするような「適切な観察主体」の強化を、支援者は被支援者との共同研究的協働によって徹底的にサポートする。
・被支援者の「今・現在」に悪影響を及ぼしているA点の出来事を、適切な心的距離をもった観察主体C点から俯瞰できるようにサポートする。この時、A点の出来事を単純な因果論的原因として扱わず、被支援者のライフ・ストーリー形成に重大な影響を与えた複雑な要因の一つとして扱い、その新しいライフ・ストーリーの再構成を促進する。
・医療モデルにおけるカテゴリー診断や様々な意見や価値観に囚われることなく、むしろ様々な意見や価値観が被支援者に与えている影響を適切な観察主体C点から被支援者自身に受け止められるようにサポートする。
・A点とB点の「行ったり・来たり」を自由無礙な観察主体のC点から俯瞰できるようにサポートし、被支援者がA点の出来事を契機に、より自己と世界が一致する方向に向かって適切な自己や世界を自己組織化することをサポートする。
・自己と世界の不一致・一致が非連続的に連続する支援の場の「今・この一瞬・一瞬」の不一致・一致を支援者自身が適切な俯瞰ができるように務める。
・過去から未来に至る内的対象・外的対象をめぐって形成された多層多次元にわたる“こころ”の現象にあって、生きづらさをもたらしている執拗に反復する自己相似的悪循環パターンをC点から安全・安心して発見し、少しでも生きやすくなる道を被支援者とともに共創することに支援者は徹する。