「ホロニカル・スタディ法(※)」の誕生の背景

「部分と全体が相互包摂的関係にある」ことを、ホロニカル心理学では、「ホロニカル関係(縁起的包摂関係)」という概念で表現します。

私たち自己は、世界包摂しようと、世界も私たちを世界に包摂しようとします。自己は死によって世界になるともいえます。このように、自己と世界は相互包摂をめぐって、一瞬・一瞬、せめぎ合っていると考えられます。

一瞬・一瞬のせめぎ合いは、被支援者と支援者の関係においても繰り返されています。一瞬・一瞬が、不一致・一致の繰り返しです。支援関係では、お互いが一致を求めながらも、各々が相手に完全に呑まれることがないようにします。自他の境界を維持しながらも共感的関係を創りだそうとするわけです。

不一致と一致の矛盾の中で、良好な支援関係は次のようなイメージになります。「不一致・一致の繰り返しの中で、被支援者と支援者が少しでも一致する方向に向かって、お互いの自己が自己を適切な自己に向かって自己組織化しようとしている流れがある」というものです。被支援者と支援者は、それぞれが独立した自己でありながらも、相手を各々との自己自身に包摂しようとしているならば、良好な流れがあるといえます。

しかしながら頑固な心的問題や心的症状を抱える被支援者ほど、適切な自己を自己組織化が困難です。こうした人たちは、不一致に拘泥し、世界の不一致の関係を支援者との関係にも投影し、視野狭窄的になって不一致を反復してしまいます。このような投影的な対人により、支援者も被支援者の悪循環に巻き込まれそうになります。

しかし悪循環から抜け出すヒントは、こうした不一致の瞬間にこそ隠されています。

もし被支援者が支援者との間でも繰り返されたと思っている自己と世界の不一致の体験が、支援者との関係で一致する体験に変換されたならば、被支援者のよき変容のための創発ポイントになると考えられるのです。それは具体的には、被支援者の不一致体験に支援者が一致することです。被支援者がいつも自己と世界の不一致になると思っている不一致体験が、「今・ここ」においては、支援者によって、そのままあるがままに一致される体験です。

ホロニカル心理学では、「不一致の一致」と概念化しています。もちろん、頑固な心的症状や心的問題のときほど、「でも・・・」と、被支援者は拘泥し、自己と世界の不一致感を支援者にも投影します。そのため支援者もつい巻き込まれてしまいがちになります。しかし、支援者が被支援者の自己と世界の一致を体験的に信じられないという悪循環を了解できれば、不一致の一致が可能になります。こうした瞬間的なミクロな体験の積み上げが、やがてもっと被支援者のマクロな変容への創発ポイントになっていくわけです。それは、氷が水になり、水が蒸気に変容していくような変容です。

創発ポイントは、不一致の一致の直接体験の中に包摂されていると考えられるのです。

こうした実践からの智慧を、支援者のためのケース・スタディ法として、体系化したのが、「ホロニカル・スタディ法」(※)です。

※ホロニカル・スタディ法の参考文献
定森恭司編(2005)「教師とカウンセラーのための学校心理臨床講座」昭和堂.pp162ー164,pp228-230.
千賀則史・定森恭司(2022)「子ども虐待事例から学ぶ統合的アプローチ:ホロニカル・アプローチによる心理社会的支援」明石書店.pp180ー196.
千賀則史・定森恭司(2022)「ホロニカル・アプローチによるスーパービジョン:ホロニカル・スタディ法による共創型事例研究の実践」同朋福祉第29号(通巻51号).同朋大学社会福祉学部.pp151ー167.