自己言及的自己再帰的対話の促進

ホロニカル・アプローチでは、直接体験我(現実主体)との対話を重視します。

直接体験とは、自己と世界の出あいをあるがままに経験することです。

自己は、自己が世界に求めるものと世界が自己に求めるものとの不一致・一致の繰り返しの生々しい体験を通じて、その直接体験を非言語的にそのまま直覚する内我を神経生理学的な機能として結実させ、直接体験を分析的体系的に理解する機能として外我を結実させ、外我の内在化する分析的体系化の理(ホロニカル主体)は、歴史的文化の影響を受けながら変容してきていると、ホロニカル心理学では考えています(注)。

自己は自己と世界との不一致・一致の繰り返しの体験の中で、自己と世界が少しでも一致するための戦略を身につけることが重要課題となっているわけです。そしてそのような生き残り戦略を立案するために、自己は直接体験と我(現実主体)との自己言及的自己再帰的対話が自ずと必要になるのです。

具体的な作業としては、直接体験を直覚的に了解する内我と直接体験を分析的に体系化しようとする外我の対話を通じて、内我と外我が一致していくような生き方の内省的探究が必要になります。内我と外我が我という意識で統合されてはじめて、その次にはじめて直接体験と我(現実主体)との自己言及的自己再帰的対話が可能になります。

内我と外我の統合後、我(現実主体)の意識が無(無我)となった瞬間に、自己と世界が一致し無境界となります。無我となるためには、ホロニカル・アプローチで実施する「自由無礙の俯瞰」によって我(現実主体)の意識そのものを脱人格化させ、場所的自己自身が直接体験を無限のミクロの点から無限のマクロの球となってあるがままに実感・自覚できるようにします。すると、無我となった自己と世界の一致の体験は、主観と客観の区別なき、一切合切のあるがままの直接体験の実感・自覚となります。ホロニカル心理学で、「ホロニカル体験」と概念化しています。

しかし、たとえ微かでも我(現実主体)の意識が働いた途端、ホロニカル体験は破れ、自己と世界は不一致の関係になってしまうます。だからこそ自己は、自己と世界の一致に向けて適切な自己の自己組織化を図るためには、直接体験と一致を求めて、直接体験と我(現実主体)との自己言及的自己再帰的対話が欠かせなくなるのです。

直接体験と自己との一致の方向には、人間の場合は、適切な自己の自己組織化の促進の他にも、適切な自己の自己組織化のために世界に働きかけるという方向があります。

しかしながら高度情報化の進む現代社会では、外我の肥大化ばかりが進み、生々しい直接体験における多様な出会いの範囲がむしろ狭まり、内我が脆弱化してきています。その結果、直接体験と我(現実主体)との対話は、とても知的な作業となり、自己と世界の一致を自己に向かっても世界に向かっても自己組織化することが難しくなってきてしまっています。

それだけに価値観が多様化する時代にあっては、内我の充実強化を促進した上で、内我と外我の一致を促進、その次に直接体験と我(現実主体)の対話を促進するような対人支援の理論と支援法の探究が必要になってきたといえます。

外我が内我を支配・コントロールするのを目指すのではなく、内我との対話の中で内我と外我が一致し我(現実主体)となり、我が無我となって場所的自己(自己)が場(世界)と一致する直接体験との自己照合を通した洞察・分析を通じて、自己がより生きやすくなるような新しい理(ホロニカル主体)を創発しくことを支援する理論と支援法を実践を通じてホロニカル・アプローチは根気よく探究し続けているところです。

注)我という意識の発達は、自己意識の発達の中でまず内我の意識が先行して結実し、その後、幾つかの段階を経て外我の意識が機能的に分化していくとホロニカル心理学では考えています。自己意識の発達を参照のこと。